第七席 合気柔術  

 さて、吉丸先生の制定された護身拳を学ぶ為に入門した筆者ですが、 大崎道場では、護身拳のみではなく、「手ほどき」や「投げ技」も教えて頂きました。  

 現在でこそ、「合気柔術」「合気上げ手」といった言葉は、ポピュラーなものになりましたが、筆者が修行を開始した頃は、「合気柔術」と「合気道」の違いも詳しくは解りませんでしたし、「合気  上げ手」とはどのような技術か、どのように重要なのか、など、筆者の周りから、普通に聞こえて くるような事柄ではありませんでした。合気道の演武を拝見して、「こんなに上手く人を投げられたらいいな」「逆関節を取るのは有効だな」という感想を持っておりましたから、同じものなのであろうと考えておりました。  

 「手解き」を行ってみますと、まずは、「てこの理」を学ぶ事が出来ます。また、腕を「円相水走りの型」に保ち、使う事で、筆者お得意の 「対重量物力」とは違う「力」があって、普段感じている  「力感」を感じない、即ち、「リキみ」を感じない、それでいて充分に強い力がある事を識る事が
出来ます。まず、これが第一歩なのだと感じます。  

 「投げ技」に関しましては、まず、初歩の段階では、「手首を極めて、 崩してから投げる」「相手の肘を相手に押し当てて崩し、そのまま投げる」という事をご教授頂けます。そのうち、筆者は 不思議な事を発見致しました。

 例えば、同じ投げ技であっても、技の入り方として、「正面打」「正面突」「横面打」など、「相手が打ってきた、突いてきたものに対処する。」という入り方と、「片手捕」「両手捕」など、「相手が掴んで来たものに対処する。」という入り方があります。技を掛ける順序 として、

  1.「相手が打って、または突いてくる。」「相手が掴んでくる。」
  2.これに対して対処する。
   例えば、攻手は手刀で正面から打ってくる→受手はこれを捌き、攻手の肘関節を掴み、返す   →これによって攻手の腕を使えなくして、技を掛ける準備をする。攻手は受手の左手首を
   掴む→攻手の肩に向けて押し上げるように左手を差し出す→これにより攻手を崩して、技を   掛ける準備をする。

  3.技を掛ける

 筆者が大変不思議に感じたのは、「2.これに対して対処する。」のうち、例えば、「攻手は受手の左手首を掴む→攻手の肩に向けて押し上げるように左手を差し出す」と記しましたが、「攻手の肩に向けて押 し上げ」とは、掴まれた点から、攻手の肩前にある点まで、つまり、 「点」から「点」まで動かすという事ですが、吉丸先生は容易く普通に行っておられるのですが、筆者などは、少し力強く掴まれると、「押す」 「押されまい」という、腕相撲の様になってしまって、初めの頃は上手く 動かす事が出来ませんでした。しかし、吉丸先生は、こちらが強く掴んでも、容易く行われておられるのですから、これは大変不思議でした。

 更に修行が進みますと、更に不思議な事が起こります。 申し上げております通り、当時は、  「合気柔術」の技術について、一般的に識る事が出来る訳ではありませんでした。ですから、筆者としては 先生から「こう掴んで」とご指示を頂くと、「こういう様に動かされる」など予見出来るものではありませんから、とにかくどの様にも動かされない様に、崩されない様に、必死に全力で掴むことしか出来ませんでした。 それでも、一瞬で崩されてしまいます。よく、「膝から崩れ落ちる」と言いますが、まさにその様に、膝から崩されてしまいます。どの様に掴んで も、瞬時に、膝から、「がくん」と崩れてしまうのです。大変理解し易い写真として、吉丸先生の著された、 「合気、その論理と実際」(ベースボール・マガジン社)をお持ちの方は、188ページの「4-5 諸手捕り合気
投げⅢ」をご確認下さい。写真①から始まり、写真③でその状態になっておりますが、掴んだその 瞬間には、写真③の状態に崩されてしまうのです。 筆者は、ただただ、不思議でした。   

 後年、これは純然たる技術である、という事をお教え頂く事となるのですが、当時の筆者は、「この様な事は、 吉丸先生にしか出来ないのだ。」と思い込んでいたものです。  

                                                                                           相顕舎の庵 第七席 了



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